ノラ猫
 
「あの男がどんな言葉をお前に吐いてるか知らないけど、そんなのただの戯言。
 男がどんな生き物なのか、お前が一番よく分かってんだろ?」

「……」

「あいつはお前の心も支配して、完璧なドールを作りたいだけだ。
 それにまんまと乗せられてんじゃねぇよ」


散々自分を調教してきたこの男の声が
グシャグシャと音を立てて心をかき乱していく。


そんなことない。
智紀はそんなこと考えてない。


純粋にあたしを救おうと……
優しさを向けているだけだって……



「お前、自分がどんだけ汚れてるか分かってんだろ?」

「―――」



でもそれだけは、逃れられない事実。



「その体、作り上げたのは俺。
 お前を心から必要としてるのは俺だけ。
 あの男は、単純に欲望の吐口が欲しいだけだよ。

 じゃなきゃ、お前みたいな数えきれない男を相手している女の体なんて、誰も欲しがらねぇだろ」



そんなこと、絶対にないのに……

どうして何も、言い返すことが出来ないんだろう……。
 
< 89 / 258 >

この作品をシェア

pagetop