うそつきは恋のはじまり



「ん?どうかした?」

「……さっきの、人」

「さっきの?あぁ、お店で行きあったスーツの人?」



頭に思い浮かぶ矢田くんの顔に、一度DVDを置きながら彼方くんのほうを振り向いた。



「高校の同級生だよ。矢田くんっていって、偶然会社が近くでさ」

「同級生……」

「うん。あ、弟って言われて嫌だった!?ごめんね、悪気はない人なんだけど、素直っていうか」



もしや、何か誤解している?矢田くんは悪い人ではないんだよ、と説明すると彼は「ふーん」と納得する。



「でもびっくりした。彼氏って、言ってくれて」

「ダメだった?あ、隠しておきたかった?」

「う、ううん!寧ろ嬉しい!ありがとうございます!!」



少し照れながら元気よく言った私に、彼方くんからこぼされるのは小さな笑み。



「けどあぁ見ると、俺やっぱガキだね。カッコ悪」

「そう?」

「そう。わざわざ『彼氏』って牽制するように言ったりして」



牽制……。ってもしかして。私と矢田くんの間を気にして?

……意外。彼方くんも、そうやって不安になったりするんだなぁ。そう思うと、目の前の彼がなんだかむしょうに愛しくて、隣に座ると彼方くんの体をぎゅっと抱き締めた。


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