うそつきは恋のはじまり
「……好き、」
「うん……俺も、好き」
その腕に甘えるように胸に顔をうずめる彼方くんに、ふわふわな髪の毛をよしよしと撫でるとシャンプーのような少し甘いにおいがする。
かわいい……かわいすぎるー!!
思わずにやけてしまいそうな顔をこらえると、彼は顔をあげて近付け、そっとキスをした。ちゅ、と一度触れては離れ、また重ねるキス。
「矢田くんのこと、ちょっと気にした?」
「……した。ていうか弟って、やっぱそう見えるのかと思うと悔しい」
「悔しい?」
「俺ひとりが、七恵に追いつけていない感じがして、悔しい」
頬を撫でるその長い指先が、教えてくれる。不安になったり悩むのは、私ひとりではないこと。彼も同じように、悩んで落ち込んでいること。
「っ〜……あーもう!好き!大好き!」
「うぉっ!」
そんな彼方くんにさらにぎゅっと抱きつくと、その勢いで彼方くんを押し倒してしまう。
「って、わっ!ごめん!勢いよすぎた!」
「ううん、いいよ。……意外と積極的?」
「え!」
ふっと笑って体へ腕をまわす彼に慌てて離れようとするものの、その手は離してはくれない。それどころか、そっと服の下に入り込もうとさえしてくる。
「きゃっ、キャー!ダメー!」
「ダメ?」
「いや、ダメではないけど……ダメー!」
キャーキャーと騒いで、はしゃいで笑って、顔を近付けてまた交わすキス。
雰囲気もないけれど、こんな彼とのやりとりが一番安心して愛しい時間だと思う。
『彼氏だけど』
そう言い切ってくれた彼に応えるように、自分も自信を持って堂々とした彼女でありたいって、そう思った。