うそつきは恋のはじまり



「じゃあ次は、俺の番」



そして、唇にキスをしようと顔を近付けた。が、その時不意に思い出したのは、昨日の彼方くんの言葉。



『レポートだけ出しに行く。明日の12時が期限だけど、さっき塾でギリギリ終わったんだ』



「っ!!あーーー!!!」

「うぉっ」



思わずあげた大声に、彼はビクッと退く。



「な、なに?どうかした?」

「まずいよ!時間!!今何時!?」

「時間?11時……って、あ!!まずい!レポート!」

「そうなの!急がなきゃ!!」



つい時間を忘れてゆっくりしすぎた!!

レポートの提出期限は12時。そして現在11時。そのことに気付き、私と彼方くんは二人してわたわたバタバタと狭い部屋を走る。



「ごめん七恵!とりあえず学校終わったらまた連絡する!!」

「うっうん!気をつけてね!いってらっしゃい!」

「いってきます!」



リュックを背負い、急いで靴を履くと彼方くんはバタバタと家を出る。

あっという間に一人となり、静まりかえる部屋で、私は「は〜……」と息を吐き再度ベッドに寝転んだ。



すっかり時間忘れちゃうなんて……私のバカ。まぁ、彼方くんの大学までなら片道20分だし、セーフか。いやいや、それでも時間は覚えておくべきだったよね。反省。

だけど、それくらい幸せだったんだもん。



『いってきます!』



ぽーっと思い出すのは、ついさっき家を出た彼の姿。

『いってらっしゃい』、か。なんか夫婦っぽかったかも。……なーんてね!やだ!にやけちゃう!



広がる妄想にデレデレしながらベッドをゴロゴロと寝転がると、シーツからはふわ、と彼方くんの匂いがする。

……一生嗅いでいたい……。

そんな変態じみたことを思いながらふと目を向けると、テーブルの下に何かが落ちているのが見えた。


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