うそつきは恋のはじまり
「前の奴の時は、正直話を聞いても『されるがまま』って印象だったけどさ。お前、あの子にはちゃんと向き合ってるじゃん」
「え……?」
「『嫌われたくない』って常にご機嫌とって我慢ばっかりしてた川崎が、あの子には『嫌われたくない』って思いながら、だからどうしたらいいかを考えてる。それってかなりの進歩だと思うけど」
言われて、みれば。
靖久と付き合っていた時の私は、彼に嫌われたくない。捨てられたくない。その一心でいつでもなんでも言うことを聞いていた。
『来て』と言われれば会いに行って、『帰れ』と言われれば帰って。『そういうガキみたいな趣味やめろ』と言われた時も……やめることは出来なかったけど、彼の前では見せないようにした。
常に笑顔で、必死で、『嫌われたくない』『だから言うことを聞こう』と、全てされるがままでいた。
……その結果、ボロが出た瞬間に全て終わってしまったけれど。
だけど、彼方くんは違う。
『会う?』『帰る?』と、常に私に考える時間をくれる。『俺はこうしたいけど、七恵は?』って、私の意見を聞いてくれる。
だから私は、されるがままにはならなくなった。『嫌われたくない』『でも、気持ちを伝えたい』『だけど伝えていいのかわからない』と、いつも悩んでばかりいる。
悩むこと、それすらも恋をする時間には大切なんだと、彼が教えてくれた。だから、私は変わった。