うそつきは恋のはじまり



「お、オトナだ……」

「七恵が子供なんだよ。そんなところもかわいいけどさ、他の男にまでそういう態度はやめてよ」



ふてくされたように言いながら、彼は私の上からどくと、腕を引き寄せ体を抱き締めた。

その力強い腕から感じるのは、彼なりの不安とヤキモチ。独占欲。そんなめずらしい彼方くんに、私も彼の体をぎゅっと抱き締める。



「……ごめん、なさい」

「わかってくれれば、よし。俺もちょっと手荒なことしてごめんね」



優しい瞳でちゅ、と額にキスをする。そんな彼方くんが、とても愛しい。

向き合って、伝えてくれる彼。時に妬いて怒って、穏やかになって、そんな心の波もきっと恋をしている証



『けど、そっちの方が『恋してる』って感じだろ』



思い出すのは、先ほどの北見さんの一言。

うん、そうだね。だから、もっと向かい合おう。傷つくことを恐れずに。



「彼方くん、あのね」

「なに?」

「私ね、実は……イベント、好きなの」



勇気を出して彼の腕のなかから顔を見上げる私に、彼方くんは最初意味がわからなそうに首を傾げた。


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