うそつきは恋のはじまり
「イベントっていうのは?」
「誕生日とか、記念日とか、バレンタイン……あと、クリスマス」
そこまで言ったところで彼も理解したらしく、納得したように頷く。
「ってことは、今日」
「う……うん、本当はふたりで過ごしたくて、楽しみにしてて。けど、ワガママを言って嫌がられたり嫌われたりするのも、いやで」
いつも、いつも嘘をついてしまう。あなたに嫌われたくない、そんな気持ちからくだらない嘘ばかり。
「あー……そっか、気付けなくてごめん。言ってくれてよかったのに。ていうか、そうしたら絶対七恵優先したよ」
「で、でもね、それで彼方くんにとって若いうちの限られた時間にしか出来ないことを奪っちゃうのも、いやだったの」
「……ばーか」
彼方くんは笑うと、体から話した手で、私の両頬を包むようにしてつかんだ。
「七恵とのことだって、俺にとっては大切なんだよ。だって、30歳の七恵と18歳の俺が過ごせるクリスマスは今年しかないんだよ?31歳の七恵と19歳の俺は来年しかない」
「そう言われれば、確かに……」
「でしょ?いつだって、俺にとっても七恵にとっても、限られた日に変わりないんだから。七恵が大切にしたいことは、俺も同じように大切にしたいよ」
私にとっても彼にとっても、大切を共有して。
「……うん、」
ひとつのことを一緒に抱きしめてくれる。その心が、うれしい。
あたたかくなる心に笑うと、彼も笑ってまたひとつキスをした。今度は、そっと優しい小さなキス。