うそつきは恋のはじまり
「かなた先生ってカノジョとかいるのー?」
「えっ、なんで?」
「ママがね、『かっこいい男の子にはまずカノジョがいるかを聞きなさい』って!」
「それは、どーも……」
生徒の親御さんは子供になにを教えているのか。いきなりの質問にどう答えるべきか少し悩むものの、このくらいの年齢の子供達には変に嘘も通じないだろうと苦笑いをこぼす。
「うん、いるよ。彼女」
「いるんだー!チューしたー!?」
「……ま、まぁねぇ」
「したんだー!オトナー!」
キャーキャーと騒ぐ女児たちに、自分が思っていた以上にこの年頃の女児というのはマセているのだと知る。
俺が小学4年のころ、先生に恋人の話なんて聞いたっけなぁ……いや、まだまだアニメやヒーロー物に夢中だった気がする。けれど、こうして話しながら、やっぱり子供の相手は苦手じゃないと思う。
俺には、親戚のおばさん……と呼ぶにはあまりにも見た目が若すぎる親戚がいて、父の妹であるその人に生まれてから小学生くらいまでずっと面倒を見てもらっていた。
いつでも本気で遊んでくれて、親よりも近くで見ていてくれたその人のおかげか、特に大きな反抗期もなくこの歳になり……彼女のような、子供に寄り添える大人になりたいという夢から教師という職を目指した。
「先生のカノジョっていくつー?年上ー?」
「うん、年上。30だよ」
「30!?うちのママと同じ!おばさんじゃーん!」
「おば……」
こ、子供の言葉は鋭利だなぁ……。
きゃはは、と笑って教室を飛び出していく生徒たちに、なにも言えずに俺も教室を後にした。
そうか、20歳で子供を産んでいれば、あれくらいの子供がいても、おかしくないのか……。ますます彼女が大人に感じ、自分が幼く思えた。