うそつきは恋のはじまり



「いらっしゃいませー」



塾でのバイトを終え、俺は駅前の大きな本屋へとやってきた。

今日は七恵は定時で仕事が終わるというので、その後にデートしようと約束をした。寒い外で待たせるのもどうかと思ったので、待ち合わせ場所はこの本屋の中に指定して。



七恵、七恵は……。俺より20センチほど小さな身長に、セミロングの栗色の髪。それを目印に店内をキョロキョロと見渡し歩く。

あ、いた。すぐにみつけた姿に、ごく自然に近付いた。遠目に横から見れば、何やら七恵は真剣な顔で雑誌を読んでいる。



なに読んでるんだろ……。

なんとなく気になり雑誌の表紙に目を向ければ、そこには『冬の恋はこれで完璧!彼のタイプ別おすすめコーデ』の文字と10代の若い女の子が載っている。

若者向け雑誌……またあれこれ気にかけて、勉強しているんだろう。そんな努力、いらないんだけど。

そのままでいいって言っている俺の言葉は信用ならない?そう少し不満に思うと同時に、自分のために彼女があれこれと悩んでくれている姿がまた嬉しいとも思う。



「なーに見てるの?」

「え!?わっ、彼方くん!?」



わざととぼけたふりで声をかけると、よほど本に夢中で俺には微塵も気付いていなかったらしい七恵は、ビクッと反応し即座に本を売り場へと戻した。


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