うそつきは恋のはじまり



「なにしてるの?バイト帰り?」

「う、うん。……友達と、ちょっと。美紅ちゃんは?」

「旦那に子供たち預けて、友達とごはん食べてたの」



ふふ、と笑う彼女は、38歳にも結婚して子供がふたりいるようにも到底見えない。

「そっか」と頷く俺に、美紅ちゃんは俺の隣の七恵に気付いたように目を向ける。



「あ……ごめんね、邪魔しちゃ悪いよね。じゃあ彼方、また家に顔出すね」

「うん、またね」



そしてひらひらと手を振ると、人混みのなかへと消えていった。相変わらず、年齢不詳な人だな……。

美紅ちゃんがその場から完全にいなくなったことを確認して、何気なしに視線を隣の七恵へと向ける。

すると、先ほどまで笑顔で歩いていたはずのその顔は少し怪訝そうに眉間にシワをよせていた。



「七恵?どうかした?」

「……今の、誰?」

「え?あぁ、親戚。子供の頃から何かと面倒見てもらってて……」



ざっくりと彼女のことを説明しようとするものの、その眉間にはますます深くシワが寄る。



「本当にただの親戚?好きだったとか、初恋の人とかそういうのじゃない?」

「へ?違うけど、なんで?」

「じゃあなんで手離したの!?」



その不機嫌な顔の理由。そうそれは、俺が離してしまった手にあったらしい。



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