うそつきは恋のはじまり
「七恵!?」
ヒールのあるブーツを履いているとは思えないほどの勢いで、あっという間に遠くなってしまう姿に、俺はひとりその場に残されたまま。
足、早……。
「……はぁ、」
追いかけても、きっと追いつけない。追いつけたとして、どう言えば伝わりきるのかわからない。
そんな諦めばかりの心に、俺は溜息をついてその場にしゃがみこんだ。
なんでこうなるんだか……。違う、俺はただ『身内に彼女だって紹介するのが少し恥ずかしい』、そう言いたかっただけ。
でもあの言い方は……『七恵を紹介するのが恥ずかしい』に聞こえたよな。
今から電話して謝る?いや、七恵のことだから電源切っているかな。家に行く?うざいとか思われたらどうしよう。
それよりも、今自分が何を言っても言い訳に聞こえてしまいそうだし、お互いの頭を冷ますために少し時間を置いたほうがいいかもしれない。
念のため電話をかけるものの、『現在電波の入らない場所か電源が切られて……』と案の定流れてきた機械的な声に、またひとつ溜息をついて家路についた。