うそつきは恋のはじまり
「いろいろあんの。俺のことよりお前、ちゃんと勉強しな。この前もテスト点数悪かっただろ」
「はいはいわかってますぅー」
「分からないところは教えてあげるから」
「もう、お兄ちゃん本当に先生みたいでやだー!」
勉強が苦手らしく、つい生徒にいうように口うるさくなってしまう俺に芽依はイーッと歯を見せ自室のある二階へと逃げて行く。ったく、あいつは……。
「あら、彼方。おかえり、早かったのね」
溜息をつきながらリビングへと入ると、出迎えたのは家事を一通り終えたところらしくエプロンを脱いでいた母さんと、缶ビール片手にテレビを見ていた親父。
時間的に、多分祖父母はもう寝室だ。
「夕飯まだある?」
「えぇ、残ってるけど……食べてくるんじゃなかったの?」
「予定変更で食べてきてないから。食べる」
ついそっけなく言うと、「わかった」と41歳という年齢相応に顔に出来たシワを寄せ笑う母。その横で、俺より10センチ以上背の低い親父がふんと笑う。
「なんだ彼方、もしかしてデートの相手にフラれたかー?女心のわからないガキはこれだから……」
「フラれてないから。俺の方が背が高いからっていちいち絡むのやめてくれない」
「んだとコラ!!」
元々背の低い親父の家系。本人もそれを気にしているらしく、母親に似て背の高い俺に対してこうしていちいちつっかかってくる。
いちいち相手するのも疲れるんだよね……。またひとつ溜息をこぼしてダイニングにつくと、母さんは俺の前にご飯を置きながらおかしそうに笑った。