うそつきは恋のはじまり
「……」
足元に雑に置いたリュックから、取り出したのはいつも使っているパスケース。合皮素材のそれを開けば、中には一枚貼られたプリクラがある。
彼女が自分の携帯に貼っているのと、同じ。ふたりがピースをして笑っているものだ。
いつでも見られるように、とこんなところにこっそりと貼っているなんて我ながら女々しいと思う。けれどそんなところも、彼女は笑って喜んでくれた。
……どれだけ言えば、伝わるのだろう。不安になる必要も、疑う必要もないこと。そんな気持ち不要なくらい、俺が彼女を想っていること。
七恵は、少し変わっているところもあるけれど、そんなところがかわいいんだ。すぐ笑って、悩んで、へこんで気持ちを隠して、だけどバレバレな時もあって。
ころころと変わる表情はみていてなんだか飽きなくて、かわいいとか愛しいとかあたたかな気持ちにさせる。もっと見ていたい、もっと笑顔にさせたい。そう想うんだ。
それはきっと、『七恵にだから』想う気持ち。
ぼんやりとパスケースを眺めていると、ヴー、と聞こえた短いバイブ音。
メールだ。もしかして、七恵?
そう期待してすぐにポケットからスマートフォンを取り出す。けれどそこに表示された受信メールは『わくわくポイント配信……』という、どこかからの広告メールだった。
……って、七恵からなわけないか。
一瞬期待した自分のバカさにがっかりして、がっくりとテーブルに突っ伏した。
「ん?彼方どうしたの?」
「何でもない……」
「何でもないようには見えないけど……変な子ねぇ」
鳴らない電話の虚しさに、またひとつ溜息がこぼれた。