うそつきは恋のはじまり
『年上のオンナなんてね、ヨユーのある男に迫られたらカレシがいてもコロッといっちゃうんだから』
頭にちらつくのは、先ほどの生徒の一言。
……やっぱり、家に行ってみよう。昨日のは俺が悪かったしな。うん、余計なこと考えずに率直に謝ろう。
ひとりそう納得しながら、テキストを持ち教室を出る。窓から見えた夜の街は、冬の空気に明かりがきらめき一層寒そうだ。
……寒そう。七恵は、こんな日でもスカートなのかな。『タイツ履けば大丈夫』なんて笑いながら、ブーツをコツコツ鳴らして歩いているのだろう。
ほら、こうしてまた自然と浮かぶその姿。
「ん?」
なにげなしに視線を塾の前の大きな通りへ向ける。すると親と帰る子供達や歩くサラリーマンたちのなか、街灯の下に立つ姿がひとつ。
それは、茶色いコートに淡いピンク色のマフラーをした七恵で、彼女は寒そうに真っ白な息を吐き出している。
「な、七恵!?」
なんでここに!?驚き急いで外に出ようと、つい建物のなかを駆け抜ける。
「こら原先生!廊下は走らない!」
「すみません!急いでるんです!!」
塾長である中年男性に怒られるのも気に留めず、飛び出した外。そこにはやはり七恵がいて、その顔は俺を見つけた途端ぱぁっと明るくなった。