うそつきは恋のはじまり
「七恵!?」
「彼方くん!よかった、今日バイトある日で合ってたんだよね!」
「合ってるけど……なにしてるの!?寒くない!?」
慌てて駆け寄りその頬に触れると、やはり寒いのだろう、ひやっとした冷たさがその肌から伝う。
けれどそんなことも気にせず、七恵は俺へと勢いよく頭を下げた。
「あの……彼方くん!ごめんなさい!」
「え?」
「昨日、変に疑ったりして……私の一方的なやきもちだった、本当にごめんなさい」
しっかりと下げられた頭に、声を発するたび白い息が漂う。
わざわざ、これを言うために待っていた?この寒い中、肌を冷たくさせて、ひとり。
あぁもう本当に、どうしよう。愛しいな、この人は。
「本当はね、疑う気持ちなんてなくて、けど……」
「……うん、」
話の途中にも関わらず、俺は七恵をその場でぎゅっと抱き締めた。腕のなかにすっぽりと収まった七恵の小さな体が余計に愛おしさを増す。
かわいい人だな、本当に。まっすぐで、いつも必死でいっぱいいっぱい。目一杯の気持ちを現してくれる。