うそつきは恋のはじまり
とりあえず、と言われたままに建物の中へ入る。中高生のクラスはもう授業が始まることもあって、広いエントランスにあるのは俺と七恵の姿だけ。
「何か飲む?体冷えたでしょ」
「えっ、あ、うん……」
壁際の自販機でホットの缶コーヒーを二つ買い、ひとつを七恵に手渡すと、その小さな両手は暖をとるようにぎゅっとそれを握りしめた。
「ありがとう、いただきます」
「どういたしまして」
そして近くのベンチに座る七恵に続くように、俺も座る。
「……俺も、昨日はごめん」
「え?」
「いろいろと、言葉が足らなすぎた」
七恵の真っ直ぐさを見習って、俺も真っ直ぐ言ってみよう。足らなすぎた言葉を補いながら、全て。
「……昨日行きあった人、美紅ちゃんっていうんだけど。父親の妹で、結婚するまで実家に住んでたから家族同然なの」
「お父さんの妹……随分歳離れてるんだね?」
「若く見えるけどあの人、38だよ」
「さ、38!?」
自分と同じか少し下かと思っていたのだろう、七恵は驚き衝撃的といった顔をする。
「子供の頃からずっと面倒見ててくれた人でさ、俺もすごい懐いてて、もう一人の母親みたいなものなんだよね」
「母親……」
「そう。だからこそ、あの人に見られるのが恥ずかしかったの。七恵でいえば、七恵のお父さんの前で手つないでるようなもの」
「確かにそれは恥ずかしいかも……」
思わず納得する彼女に、つい笑ってしまう。
また、コロコロ変わるその顔がかわいい。見ていて飽きなくて、好きだと想う。