うそつきは恋のはじまり
「……、」
そのままトイレへ入れるわけもなく、ドアから手を離し引き返すと、パーティルームへと戻った。
するとそこには、つい先程まで私が座っていた席に女の子が座っており、彼方くんの腕にベタベタと抱きついている。
「かーなたくんっ、飲んでるかー!」
「いや、俺未成年なんで……」
「えー?そんなこと言わずに飲め飲めー!」
彼方くんは一応離すように手をほどくものの、彼女のほうは一向に手を離さない。
話し方から見て彼女は先輩なのであろうことから、強く拒めないでいるのもあるかもしれない。
「うわ、出たよ先輩。原くんにベッタリ攻撃」
「あの先輩可愛いんだけど酔うとあれがなー」
小声で話す周りの子たちの言葉に、遠目から彼方くんたちを見れば、それは違和感のないふたりの姿。
『なんであれなわけ!?』
『あの女もさ、どう見ても変だって気付けって感じ』
『変』、思い出す一言が余計にずしりと心にのしかかる。
……変、なんだ。違和感がある、似合わない、つりあわない。
私と、彼では。
「……彼方くん」
「あっ、七恵!ごめん、この人酔っ払うとこうでさ……」
隣に近づき呼んだ名前に、彼方くんはこちらを振り向くと彼女の腕をパッと少し強めに振り払った。