うそつきは恋のはじまり
「ううん、それは構わないんだけど……私、明日実家に呼ばれてたんだった。そろそろ帰るね」
「えー?七恵ちゃんもう帰っちゃうの?」
「ごめんね、本当はもっと長居したいんだけど朝早くて」
えへへと精一杯笑って至って自然に荷物を手に取る。そして「またね」と手を振るとみんなに見送られ部屋を出る。
廊下にひとりになった途端、一気に消えた音。そこから逃げ出すように、コツコツとブーツのヒールを鳴らして足早にカラオケをあとにした。
似合って、いた。彼方くんと女の子。
若い彼に自分がつりあわないことなんて、最初から分かっていた。だからあの日私は嘘をついたし、なかなか本当のことを言えなかった。
でも、それでも『好き』と言ってくれた彼方くんがいたから、堂々としようって決めたのに。
……なにも、言えなかった。
言い返すことも出来なくて、『変で悪かったね』って、『それでも私は彼方くんが好きだから』って、その言葉たちすらも言えずに、言われっぱなしでへこんでいる。
ううん、寧ろその言葉を受け入れてしまってすらいる。
変、なんだ。やっぱり、ダメなんだ。