うそつきは恋のはじまり
「……待って、そうじゃないの、」
「見損なった。……少し時間、置こう」
「彼方くん……」
それだけを言うと、彼方くんは背中を向けて歩き出した。
遠くなる、彼の背の高い後ろ姿。待って、いかないで、ごめんなさい、心の中にならいくらでも言葉は出てくるのに、声にはならない。
「……っ、……」
……最、低。
きっと、ううん、確実に今度こそ嫌われた。
嘘をついても、素直に言えなくても、どんな私も怒らずに受け止めてくれた彼が見せた、怒り。
『見損なった』
それはきっと、その言葉の通り。失望を意味した。
追いかけることも引きとめることも出来ない。自分の情けなさに、涙も出ない。
ただ自分の言葉を、後悔することしか出来ずにその場に立ち尽くしていた。