うそつきは恋のはじまり
ヒールの足元の不安定さも気にせず、夜の街を駆け抜ける。上着を着る時間すらも惜しく、グシャグシャに腕に抱えて。
彼方くん、彼方くん。大切なこと、すぐに見失ってしまってごめんね。
好きだから臆病になるけど、好きだからなくしちゃいけないものがあるのに。
『好きだけど、それだけじゃダメなんだよ……』
好きだけじゃ、越えられないものがあるって、そう思ってしまった。だけど、ううん。そうじゃない。
好きだから、越えられるんだ。好きの気持ちがあるから、歳が離れていたって周りになにを言われたって、彼といたいと想えるんだ。
全てはその気持ちがあるから。
「はぁっ、はぁっ……」
『二番線、電車が発車致します』
駆けつけた駅には丁度停まっていた電車。今にも発車しそうなその電車にぎりぎり乗り込むか次のに乗るか、一瞬迷う。
けれどその時、電車の窓からちらりと見えたのは車内に乗っている彼方くんの姿。
彼方くん!今日バイトだったんだ!
こちらに気付くことのない彼方くんを乗せて、電車はプルルルルと発車の合図を響かせた。