うそつきは恋のはじまり
「だから、嫌いにならないでぇぇ〜っ……」
伝えるうちにボロボロとこぼれだす涙。汗と涙でぐしゃぐしゃな私の顔を、その手はそっと包み込む。
「……あーもう、ばか」
呟く彼の瞳は優しく、嬉しそうな笑顔。そしてそのまま両腕で、私の体をぎゅっと抱きしめた。
「……わかってるよ、俺も同じ気持ちだから」
「彼方、くん……?」
「七恵だから、好きなんだよ」
耳元で囁く、少し照れた彼の低い声。
一度くじけて、『見損なった』って言っていたのに、そんな私のことを抱きしめてくれる。まだ同じ気持ちを抱いてくれている。
そのことが、嬉しい。彼の優しさが、愛おしい。
「彼方くん……彼方くんん〜……」
嬉しさに更に泣き出しながら、彼方くんにぎゅううっと抱きついた。
「七恵、苦しい」
「だってぇ〜……」
そんな私を彼方くんは、笑いながら優しく受け止めてくれる。
「んっ、ゴホン!」
「へ?」
すると聞こえた咳払いに、前にもこんなシチュエーションがあった気が……と恐る恐る振り向けば、周囲には電車に乗る乗客たち。その視線は皆こちらへ向いていることに気付く。
ま、またやってしまった……!
「す、すみません!」
「お騒がせしました!」
顔をかぁーっと赤くし、私と彼方くんは体をぱっと離した。けれど周囲の視線はまだまだ突き刺さり……。
「つ、次の駅で、降りようか……」
「そ、そうだね……」
いたたまれず、私たちは次の停車駅で降りることにした。