うそつきは恋のはじまり
ひとりきりの、夜の住宅街。
ひとりで暮らす自宅のアパートへ続く道を、ブーツのヒールを鳴らしながら駆け抜ける。
心臓は、バクバクと音をたてて。
ど、どうしよう……。
やってしまった。やってしまった、私……。
う……嘘を、ついてしまった……!!
10歳もサバを読んでしまった。20歳って!30歳が20歳って!
しかも彼方くん、信じちゃったし……!
けどあそこで素直に歳を言って、
『はぁ?もう少し若いと思ったらそれとかありえないんだけど。ガキくさいのもいい加減にしろよ』
なんて言われたら嫌だったし、絶対ヘコむし、でもだからって嘘をつくって……私のバカ!最低!
あぁもう、本当に会わないようにしなくちゃ。嘘がばれないように、『あんな人もいたな』って、彼の中で思い出で消えられるように。
「私のバカ……」
いきなり走ったことであがる息に、「はぁっ」と声を漏らした。
額の汗を拭おうとした手には、彼からもらったストラップが握られている。
『可愛いものは可愛いんだから、いいんじゃない?』
……彼は、否定しなかった。私の好きなものに、笑ったり呆れたりしないで頷いてくれた。
そんな彼になら、素直に言っても大丈夫だったかもしれない。……けどそんな後悔も、今更。
「はぁぁ〜……」
嘘つきな恋が、始まりを告げた夜。深い溜息に包まれて、夜の住宅街をひとり歩いた。