うそつきは恋のはじまり
「それは、わがままじゃない。『ありのまま』って言うんだよ」
「ありの、まま……」
「俺も、周りに何を言われても七恵といたい。七恵とだから、いたい。それが俺のありのままの気持ち」
そう言って、彼方くんも私の手に力を込め握り返した。
「けどさ、歳の差が気になるのなんて今のうちだけだと思うんだよね」
「え?」
「今は18と30だから差も大きく感じるけど、10年20年経っていつか70と82とかになったら正直あんまり関係なくない?」
「た、確かに……」
言われてみれば、そうかも……。
ははっと笑って言う彼の言葉に思わず納得してしまう。すると不意に足を止めた彼方くんに、つられるようにして足を止めた。
「だからいつか『12歳なんて大差ないよ』って笑える歳になるまで一緒にいようよ。それまで何度だって、七恵がめげる度に上を向かせてあげるから」
「彼方くん……」
「今はまだまだ遠い未来の話に感じるかもしれない。けど、約束する」
微笑む彼方くんは、背負っているリュックの内ポケットから何かを取り出す。そして「左手出して」と私の左手をとると、何かをそっと薬指にはめこんだ。
え……?これ、って……。
驚きながら見れば、ピンク色のマニキュアの塗られた私の左手薬指に光るのは、シルバーのシンプルな指輪。