うそつきは恋のはじまり
「か、彼方くん、聞いてもいい?」
「ん?なに?」
「今日、お家の人って……」
「あぁ、今日家族全員親戚の家に行ってて。遅くなりそうだから泊まってくるって」
あ……もしかして、だから家に呼んでくれた?
だよね、そうだよね、そうですよね……!!よかったような拍子抜けなような……!
「はぁぁ〜……」と深い溜息を吐き出した私に、彼方くんは意味がわからなそうに首を傾げた。
「適当に座って。今コーヒー入れるね」
「ありがとう」
通された広いリビングで、コートを脱ぐと大きなソファに座る。
ちら、と見渡せば目の前の低いテーブルに置かれたままの新聞や、壁際にかけられたTシャツなど、溢れる生活感に彼の毎日の暮らしを想像する。
ここでいつも彼方くんが生活しているんだ……。
寝て、起きて、テレビを見て……想像するだけで「うふふ」とだらしなくなる顔を両手で抑えた。
すると、不意に漂うコーヒーの匂いにキッチンの方を見れば、そこでは彼方くんがカップにお湯を注いでいる。
いつもは私が私の部屋で入れるコーヒー。だけど今は、彼方くんが彼方くんの家でいれてくれている。そのことがなんだか新鮮で、うれしい。