うそつきは恋のはじまり
川崎七恵、30歳と1ヶ月。
1週間ほど前、1年付き合った5歳年下の彼氏にフラれました。
ショックでフラフラな毎日を送る私を気遣ってくれた、同期の莉緒と上司の北見さんに連れられやってきた居酒屋。
そこで悲しみをぶつけるようにビールを飲み続け、酔っ払いと化している今日この頃です。
「うっ、ぐすっ……うぇっ、うぅぅ〜……」
「七恵、とりあえず顔拭きなよ。はい、おしぼり」
「うぅ、莉緒ぉ〜……」
号泣し続ける私に、呆れたようにおしぼりを手渡してくれるのは、同じ会社の同期であり友人の吉木莉緒。
黒いロングヘアで一見冷たそうにも見える顔の莉緒は、私がおしぼりで涙をふく間にも、面倒見よくあいたジョッキを片付け、濡れたテーブルを自分のおしぼりで拭く。
「けど別れ話なんて随分いきなりだなー。1年くらい付き合ってたんじゃなかったっけ」
一方で私の泣き顔に引きながらもそう問いかけるのは、私と莉緒の向かいに座る、2つ年上の上司・北見修二、こと北見さん。
営業マンらしいパリッとしたスーツに、長めの茶髪が彼を年齢より若く見せる。
「付き合ってましたよ……1年。そしてちょうど1年目の記念日を迎えたその日に、『ガキっぽくて付き合いきれない』ってフラれましたよ!!」
「うわ……よりによって記念日にとか……」
「ありえないてすよね!?泣きたくもなりますよねぇ!?」
その肩をつかみ力説する私に、北見さんはうんざりとした様子で私の手を払う。