うそつきは恋のはじまり
「はぁ〜……」
その日の晩、私の姿は夜遅くの電車のなかにあった。
気付けば時刻は23時近く。気を紛らわそうとするあまり、仕事頑張りすぎちゃった……。
ていうか北見さんの持ってくる仕事が多すぎるよ……事務員だからってこき使ったりして!まぁそれが私の仕事なんだけどさ。
ぐったりと椅子に座る私を揺らし、電車は進む。
けどこの時間なら、彼方くんもいないよね。初対面の時にあの時間に乗っていたのも偶然、普段は19時の電車が多いって言っていたし。
会えないのが、残念なような安心するような……。
考えているうちに着いた駅で、私は降り改札を出た。
「あ、七恵。きた」
「へ?」
その声に振り向くと、改札を出てすぐの壁際には黒いコートのポケットに手を突っ込み立っている彼方くんの姿があった。