うそつきは恋のはじまり
「か、彼方くん!?どうしたの!?」
「渡したいものあったから、待ってた。七恵、こんな時間まで仕事だったの?」
「え?う、うん……残業で」
「そっか。お疲れさま」
彼方くんはポケットから出した手で私の頭をポンポンと撫でる。
その一切下心の見えない仕草に、胸の奥がきゅーんと掴まれた。
「わ、渡したいものって?」
「ん?あぁ、これ」
すると彼方くんがポケットから取り出したのは、小さなぬいぐるみ。
頭に大きなリボンをつけた白い毛の長い猫……ケティーちゃんだった。
「わっ……ケティーちゃんだ!しかもゲームセンターのプライズ限定デザインの、ゴージャスリボンバージョン!かわいい!かわいー!!」
手に取りすぐキャーキャーと騒ぐ私に、彼方くんは「あはは」と笑う。
「これどうしたの!?」
「うちの妹もこの猫好きで集めてるんだけどさ、『ゲームセンターで二個も取れたからいらない』って。そういえば七恵、これ好きだったなーって思い出してさ」
この前のあのやりとりだけで、覚えていてくれたんだ。
彼がすぐに私のことを思い浮かべてくれたことが、嬉しい。