うそつきは恋のはじまり
「家どの辺?」
「この先の住宅街奥、歩いて15分くらいかな。小さいアパートだよ」
「一人暮らしなんだ?」
「うん」
肌寒い秋の終わりの夜。細い道には私のブーツのヒールの音と、彼方くんのスニーカーの底が擦れる音が響く。
「へー……なんか、七恵ってハタチにしては大人だね」
「え!?そ、そう!?」
「うん。雰囲気もOL10年やってます、って感じだし」
そ、そうだね、十年近くやってるからね……!そりゃあ貫禄もでちゃうよね!
疑ってはいない様子から、なにげなく話しているのだろう。けれど、その一言一言に心臓にはギクリと嫌な緊張がはしる。
「2つしか変わらないのに俺はまだ実家暮らしだし。俺の親戚の女の人とかも、結婚するまで実家にいたからさ。ハタチそこそこで一人暮らしってすごいと思う」
「へ、へー……」
い、言う?言っちゃう?
今この流れで素直に言っちゃう?
『実は私も25まで実家にいたんだ』って。『本当は30だから、落ち着いていて当然なんだよ』って。
けど、でも……言う!言おう!
「か、彼方くん!!」
「ん?」
意を決して彼に向き合うものの、名前を呼ばれこちらを向くその顔は、キラキラとした明るい笑顔……。
って言えない!!言えるわけがない!!
「な、なんでもない……」
言葉を飲み込む私に、彼方くんは不思議そうに首を傾げた。