うそつきは恋のはじまり
「けどこの前さ、よく酔っ払い相手に立ち向かったよね。あれはびっくりしたー」
不意に彼方くんは、先日の出来事を思い出すように感心して言う。
「え?あー……はは、恥ずかしい。普通女がおじさん投げたりしないよねぇ」
「けどかっこよかったよ。俺なんて『どうやり過ごそうかな』って考えるだけだったのに」
「それも彼方くんらしい。私も相当酔っ払ってたから、さすがにシラフじゃあそこまでは出来ないよ」
いくら昔柔道をやっていたからとはいえ、いつでもどこでも男を投げるような女だと思われたらたまったもんじゃない。
そんな気持ちからさり気なく『酔っ払ってたから』を強調した。
「あぁ、ちょっとフワフワしてると思ったらやっぱりあの時酔っ払ってたんだ」
「あはは、やけ酒を少々……」
し、しまった!なにかあればすぐ酒にはしる女だと思われた!?
違うの、そうじゃないのっ……!
「あ、あの!あの日はちょっと荒れてて!滅多にないんだけど……あんなに飲むなんてレアなんだけど!!」
「へぇ、そんなに荒れるようなことがあったの?」
「え!?えーと……」
あぁもう、話せば話すほど墓穴……!
それ以上言い訳や誤魔化すことも諦め、私は渋々話し出す。