うそつきは恋のはじまり



いつものように何気無い会話をしているうちに、駅に着く電車に私と彼方くんは降りる。

11月末の夜は、ビュウッと吹いた風の冷たさが肌を刺す。



「うぅっ、寒い!」



薄ピンク色のマフラーをしっかりと巻いているにも関わらず、身震いしてしまうほどの寒さに、思わず声をあげた。



「本当、寒いね。早く帰ろ」

「うん……あっ、ちょっと待って!」



彼方くんはカーキ色のジャケットのポケットに手を入れたまま、至って自然に私の家の方向へ歩き出そうとする。それを私は呼び止めた。



「彼方くん、今日は送らなくていいよ」

「なんで?」

「なんでって……家の方向逆なのにいつも送ってもらっちゃってるし。こんな寒い中歩き回ってたら風邪ひいちゃうよ」



思えば、最初に送ってもらった日から続けて送ってもらっている。聞けば彼方くんの家はうちとは真逆の方向のようだし、一緒にいられるのは嬉しいけどそう何度も甘えてはいけないとも思う。

そんな気持ちから言った私に、彼方くんは何かを少し考えると、「あー……」と口を開く。


< 38 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop