うそつきは恋のはじまり
歩きながら見上げれば、私より頭ひとつ近く大きな身長に、背が大きい子なのだと改めて思う。
月明かりに照らされ、透き通る茶色い髪がふわふわと揺れる。その姿を見上げていると、彼の視線は不意にこちらを向いた。
「ん?どうかした?」
「えっ、あ……背、大きいなって思って!何センチ?」
「177。中学くらいに一気に伸びてさ、父親が背低いほうだから俺に背抜かされてショック受けてた」
「あはは、お父さんかわいい」
彼方くんのお父さんって小柄なんだ、意外。
顔立ちは女の子っぽいし、お母さん似かな?そういえば妹さんもいるって言っていたっけ。いくつなんだろう。
何気無い会話ひとつから次々と湧き上がる疑問は、彼のことを知りたいと思う気持ち。
もっと知りたい。もっと、近付きたいよ。
「っくしっ、」
その時、突然彼方くんから聞こえたのは小さなくしゃみ。
平気な顔をしていても、やっぱり寒いのだろう。「はー……」と吐き出す息は白い。
「寒い?大丈夫?」
「うん、へーき……」
「あっ、じゃあせめてこのマフラー巻いて!」
自分が身につけていた薄ピンク色のマフラーをほどくと、背伸びをして彼方くんの首元へ巻きつける。
いかにも女性物のマフラーだけれど、それもまた似合わなくもないのが彼だ。