うそつきは恋のはじまり
「けど、七恵が寒いでしょ」
「私は平気!だから彼方くんそれ巻いて帰っていいからね」
「……ありがと」
少し戸惑いながらも、甘えることにしたのか、彼方くんは長いマフラーに顔をうずめて笑う。
あぁ、天使……!その笑顔ひとつで今夜もいい夢が見られそう!
キュン、とする私の一方で、彼方くんはマフラーをくんくんと嗅ぐ。
「どうかした?あっ!臭い!?やっぱり私が巻いてたからっ……」
「ううん。そうじゃなくて、いい匂いだなって」
「え?」
そして、次の瞬間私の首筋に顔をうずめるように近付くとくん、と匂いを嗅いだ。
「うん、いい匂い。シャンプーかな?」
同じ高さで合う目と目。何気ない様子で笑う彼との距離に、ドキッと心臓が強く鳴った。
ち、ち、ち、近いーーー!!!
不意打ちでこれは、反則!ダメ!心臓がもたないっ……!
「七恵?どうかした?」
「い、いいえ、なんでもないです……」
「なんで敬語?」
「変なの」と笑ってまた歩き出す彼方くんに、追いかけるように私も早足になる。
ど、ドキドキしている場合じゃない。今日こそ言わないと。彼方くんに、本当のこと。
私本当は30歳なの、サバ読んですみません、って。言う。言わないと。言わなきゃ。
「……か、彼方くん、」
意を決して名前を呼ぶと同時に、彼方くんはさり気なく手を握った。
熱いくらいの私の手とは対象的に、ひんやりとした彼の手。細長い指をした大きな手が、ぎゅっと包み込む。