うそつきは恋のはじまり



「じゃあ、また」

「うん。ありがとう、おやすみ」



二階建ての小さなアパートの前で私は彼方くんと別れると、二階の一番端にある自宅へと入る。

バタン、と閉じたドアに一人になった開放感もあり、私は靴も脱がずに目の前のフローリングの廊下にぐでっと横になった。



し、幸せすぎて溶ける……。

近付いて、手をつないで、すごく幸せな時間。ドキドキ、している。けど今日も言えなかった……。



『向こうからすれば三十歳なんておばさんよ!?』



不意に思い出すのは、昼間の莉緒の言葉。

おばさん、おばさん……なんて、彼方くんに思われたりしたらいやだ……!!

けど、それでも好きだし気持ちは止められない。なら、嘘を実にするしか!



ガバッと体を起こし、私ははいていたブーツを脱ぎ捨て洗面所へと駆け込むと、貰い物の高級な洗顔料や化粧水を取り出し並べる。

高いからってたまに少ししか使わずにいたけど……今こそこれを使う時!

沢山ケアして、いいもの使って、綺麗になろう。



川崎七恵、30歳。ハタチに戻ります。




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