うそつきは恋のはじまり
「紹介します、私の彼氏の彼方くんです!」
その日の夜。彼方くんと待ち合わせをした会社近くの大きな駅で、満面の笑みで彼方くんを紹介する。
「原、彼方です」
にこ、と見せた彼方くんの柔らかな笑顔。それは今日もキラキラと可愛らしい。
そんな私たちの目の前では、莉緒と北見さんが唖然といった顔をしてみせた。
「七恵、こちらは?」
「あっ、えと……“先輩”の莉緒さんと北見さん!」
「あぁ、先輩の」
『先輩』を強調すると納得する彼方くんに、莉緒は「どうもー」と笑顔を見せた。たぶん、あとで『誰が先輩だって?』と静かに怒られるに違いない。
「ちょっと、七恵」
「ん?」
すると莉緒は私を手招きし、男性陣に背中を向け聞こえないようにコソコソと声を潜める。
「ちょっと……超いい男じゃない!かっこいいじゃない!可愛いじゃない!なにあれ、天使!?」
「うふふー、分かる?天使でしょー?」
「あれで性格いいなんてありえない……やっぱり壺買わせる気なんじゃないの!?」
「ってそっち!?」
彼方くんの見た目が素敵なのは莉緒も同意らしいけれど、そこがまた疑わしく感じたらしい。
小声で言いながら肘で私を小突く莉緒に、私も小声で反論した。
「七恵?どうかした?」
「えっ!?あっ、うん!なんでも!じゃあ私たちいくから!先輩たちもお疲れ様でした!」
あんまりコソコソと話していると怪しまれちゃう!そう私は彼方くんの隣へと戻ると、莉緒たちに手を振ってその場を歩き出した。
「ありえない……あんな若い子が、七恵をねぇ」
「なにがあるか、わかんねーよなぁ……」
背中で聞いたぼやく二人の声を、聞こえないふりをして。