うそつきは恋のはじまり
彼方くんと並んで歩き出した、駅前の大通り。そこは平日の20時ということもあり、仕事帰りのサラリーマンたちでにぎわっている。
「彼方くん、いきなりごめんね。二人が彼方くんのこと見たいって言うから……」
「ううん。七恵の会社の人と会えるなんて貴重じゃん、嬉しいよ」
にこ、と笑って彼方くんからはそっと差し出される手。
『つなごう』と言葉にしなくても分かる合図に応えるように手を重ねると、その大きな手は私の手を包み込むように、ぎゅっと握った。
「彼方くん、バイトしてるんだね。なんのバイト?」
「塾の講師……って言っても、一日一コマとか、雑用とかばっかりだけど」
「塾の講師!?すごいじゃん!頭いいんだねー」
「小中学生相手だけどね。教師志望だから教える勉強の一環にもなるし」
「教師!すごーい……」
学校の先生……なんか、イメージできちゃうかも。こんなに素敵な先生だったら、生徒にも保護者にも大人気だろうなぁ。
教壇に経つ彼を想像して、思わずにやけそうになるのをグッとこらえる。