うそつきは恋のはじまり
「え……?」
「七恵、久しぶり。仕事終わりか?」
なんで、どうして、と思う私の戸惑いも知らず、靖久はへらっと笑ってこちらへ近付く。
あの日『付き合いきれない』と別れを告げて、昨日は私と真逆な女性と歩いていた。そんな彼が、どうしてここに?
頭がついていかず、驚いた顔のままの私は彼の目に少し間抜けに映っていると思う。
「なん、で……」
「昨日、街歩いてたの見かけてさ。姿見たら会いたくなって」
昨日……ってことは、あの時だ。私と彼方くんの姿を、靖久も見ていたんだ。
「へへ」と笑う姿に、付き合っていたころの楽しかった記憶が重なる。
「……そういうの、やめてよ。昨日の彼女は?」
「え?あぁ、お前も見てたんだ。あれは彼女っつーか、ちょっといい感じかなって奴だったんだけど……年上っぽさはあるけど、かなり性格きつくて。やっぱり七恵みたいな可愛げのあるほうがいいと思ってさ」
靖久はそう言うと、私の右手をつかむ。
要するに、狙っていた相手がダメだったから戻ろうと。その態度にもうとっくに冷めていた心は更に冷ややかになっていく。
……ありえない、最低。人として、嫌いだ。