重なり合う、ふたつの傷
お風呂も髪を洗うと泡が浴槽に飛び散ってしまうくらい狭くて、その浴槽も足を縮めないと入れなかった。
私より背が高く、がっちりしているお父さんはもっと窮屈だろう。
そうだ! 天野くんの家にあったような入浴剤を買って入れてみよう。
気分的に少しは変わるかもしれない。
駅ビルに量り売りの石鹸や入浴剤を扱っているお店があったはず。
去年の誕生日、ルミがそのお店のリップクリームをプレゼントしてくれた。
ルミはそういうのに詳しいから今度聞いてみよう。
お風呂から出るとお父さんとお母さんがテレビを見ていたから私もそこへ座った。
見ていたのは気楽に笑えるバラエティ。
そういえば、三人でテレビを見るのって地デジになってから初めてだ。
しかも正座で。
テレビは薄くなったけど、家族の関係はブラウン菅より厚みを増した。
部屋が狭い分、心の距離も縮まった気がした。
自分の部屋も前より窮屈だけど、使っていたベッドが入ったから安心した。
天野くんからは《引っ越し、お疲れさん。おやすみ》とメールが来たから、私は《ありがとう。おやすみ》とおやすみの後にハートマークをつけて返信した。
マンションの三階から見える中途半端な街を見ながら。