重なり合う、ふたつの傷


『夕焼けラーメン』というお店で炙りチャーシュー味噌ラーメンを食べた。

「私ね、零士に感謝してるんだ。満足のいかない日常を変えてくれたから」


「そう言ってもらえるとオレも嬉しいよ」


零士の自信ありげなのに少し照れている表情がセクシーだった。


「へい、おまち。お嬢ちゃん、熱いから気をつけてな」


そう言ってラーメンを出してくれたおじさんの頭に巻いてあるバンダナがかわいい。

気さくそうで話しやすそうな人。


「はい。ありがとうございます」


私はそう返事をして零士に聞いた。


「零士、毎晩こういうの食べてて太らない?」


「ああ、どっちかっていうと痩せていってるかな。ライブで体力消耗するし」


確かにそうかもしれない。

歌っている時の零士の汗は半端ない。そうやって歌っている姿がラズベリースターの魅力のひとつでもある。


応援してくれているファンに全身全霊を捧げていた。


「君は、ダイエットとかしてるの?」


「ううん、してない。ちょっと前まで胃が痛くて痩せちゃったくらい。口内炎できてるし」


「ごめん。ラーメン染みるんじゃない?」


「ちょっとくらい染みても平気だよ。零士といたらすぐ治りそうな気がする」


そう言って、チャーシューを食べた。


「おいしい。とろけるね」


「だろ。ここはスープも麺もうまいから」


スープを飲んで、麺をすする私。

それを見ている零士。

その瞬間瞬間を見られている。

嬉しいけど食べづらい。


「あんまり、見つめないで……」


「君ってさ、声かわいいって言われない?」


「言われないです。っていうか私、自分の声が嫌い。だから大きい声とか出したくなくて」


「オレ、好きだな、君の声。鼻にかかったじゃれた声」


零士にそう言われて、急に自分の声が愛おしくなった。





< 159 / 209 >

この作品をシェア

pagetop