重なり合う、ふたつの傷
「梨織、なんだよ、どうした」
「ごめん、起こしちゃった。なんでもないの、ただちょっとね」
天野くんは起き上がると私の頭を撫でた。猫を撫でるかのように優しくやわらかく。
「蒼太くん、して」
私は勇気を振り絞ってそう言った。
でも天野くんの返事がない。
『好きだよ』って言ってくれた時はあんなにすぐだったのに。
「……そっか。そういう対象にはならないんだね」
「違うよ」
「ううん。蒼太くん優しいから。好きだよ、なんて言ったのもあのキスも優しいから、ただ、言っただけ。ただ、しただけ」
そう言う私に天野くんは背を向けると白いシャツを脱いだ。
すらっとした綺麗な背中が月明かりで浮かび上がるように見えた。
その瞬間、天野くんが振り向いた。
次に目に入ったのは胸にある傷跡だった。
天野くんの胸には大きな傷跡があったのだ。