重なり合う、ふたつの傷
息を止めて涙も止めようとしたけど止まらない。
天野くんがそれに気づいて、振り返った。
「梨織、泣いてる? おい、なんだよ、どうして。もういいってりんごジュースの事は」
「!! 蒼太くん、危ない!! 前、前見て」
自転車がブロック塀にぶつかりそうになって目をつぶったけど、ぶつかる寸前で止まっていた。
「危ないよ」
「梨織がりんごジュースくらいで泣くからだろ」
「違うよ。私が泣いたのは蒼太くんが生きていてくれてよかったと思って」
天野くんは自転車をブロック塀に凭れさせながら、私を抱き寄せ、おでこにキスをした。
りんごジュースは結局買えなかった。
三つ先の信号を左折した所にあるスーパーは八時閉店で、着いたのが八時五分だったから。
りんごの妖精、りんごちゃん。ごめんね。またいつか会いましょう。
帰り道、私はまた天野くんの背中にしがみついた。幸せで満ち溢れていた。
その幸せを二人で分け合うように天野くんの家の側にある自販機で桃のジュースを買って二人で飲んだ。