私、恋をしている
私が『好き』って、言ったら⁉︎
ベンチから立ちあがると、家とは反対の、千里中央行きのホームに向かった。そして、電車に乗りこみ、桃山台で降りた。春日園の、独身寮がある駅だ。


いつ来るかも、わからない。もしかしたら、帰って来ないかもしれん。


それでも、いい。私は、芳賀さんを待とうと決めて、秋風が吹き抜ける駅のベンチに座った。いくつもの電車が、人を運んでは、過ぎてゆく…。


電車をいくつ、見送ったかは覚えていない。時計が23時を過ぎたころだった。


芳賀さんが…ホームに姿を見せた。他の人たちに紛れ、エスカレーターのほうへと、歩いてゆく…。


芳賀さん…。
声をかけられない。口をポカンと開けたまま、視線を送る…。


通り過ぎた…。黙って立ちあがると、芳賀さんが急にクルッと振り向いて、私のほうに歩みよった。


「なんで?こんなとこに…」


通り過ぎた…と思ったのに、気付いてくれた。嬉しくて。でも、言葉にならなくて。


「髪、切ったから一瞬、気付かんかったけど…なんかあったんか?」


「あ、あの………」


「とりあえず、座ろ?終電、大丈夫?」


私が頷くと、並んでベンチに座った。


「わざわざここに来るくらいやから、なんかあったんやろ?」


芳賀さんが、心配してくれている。きっと、妹を心配する、お兄ちゃんの気持ちで…。あ…いやや、そんなん…。


「うーっ…」


涙を堪えるのに必死で、言葉にならない。芳賀さんは立ちあがると、自販機で『お茶日和』を買って、私に差し出した。


「ちょっと落ちついてから、話す?」


うん。と頷いてお茶を飲むと、体に染み渡った。話を、しようと思った。



< 37 / 43 >

この作品をシェア

pagetop