私、恋をしている
冷静な芳賀さんらしくなく、口をポカンと開け、目は完全に泳いでいた。


「返事とか、いらんし。もうすぐ電車来るし。帰るし…」


早口で、ブツブツ言って背を向けた時、手首をグッと掴まれた。


「佐野ちゃんは…自分勝手や…」


黙って振り向くと、あの時の写真のような笑顔の、芳賀さんがいた。


「オレの話も、聞いて?」


溢れる涙も拭かず、手首を掴まれたまま頷いた。


「オレは…人との間に、壁を作ってしまうけど…佐野ちゃんは、唯一、オレの喜怒哀楽、すべてを…引き出してくれる人…や」


芳賀さんは、笑顔で…涙を流していた。


「友達の前で、怒ったり、泣いたり、したこと、ないのに…」


「芳賀さん…」


「先に好きになったのは…オレのほうやで、佐野ちゃん…」


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