最弱ヤンデレ佐々木くん

「ちょっと、信治(しんじ)ー。藤川さんとこに回覧板回して来てくれない?母さん、これから夜勤なのよー」

看護師たる母がよく、仕事前の夕方にこういった願いをすることはよくあることだった。

買い物なら行ける。しかして。

「ふ、ふふ、藤川さんの家なんて、は、入った瞬間にドキドキし過ぎて心配停止するじゃないか!」

「想像だけで過呼吸にならないで。リハビリよ、リハビリ。精神的なものなら、慣れちゃえばいいって。何も、彼女の部屋に行けってんじゃないんだから、玄関先に置いてきてー」

「気合いで病気が治ったら、苦労なんかしなーーぶはあ!」

「吐血したら、自分で片づけなさいよー。行ってきます」

「こ、この、やぶ看護師……」

とは言え、吐血は日常茶飯事。
10分ほど横になっただけで落ち着いた。

母から渡された回覧板。
生唾を呑む。平常心、平常心。

なに、玄関先に置いて来るだけでいいんだ。

難易度なんて、山羊さん郵便程度のものだろう。ただ、置いてくるだけ。読んだかどうか確認しなくてもいいし、多分彼女は今頃、別の友人の家に行っているはずだ。

その友人の家に行けば、お泊まりなんてしょっちゅうだし、女かどうか確かめれば「佐々木くんも泊まるー?」って言われるほど、ふしだらなことはないお泊まりだし、ともかく。

「せめて、彼女の家の匂いだけでも堪能しよう!」

一秒だけでも。

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