俺の魂を狂わす女
「乾杯！」

沢木がグラスを掲げて明るく言った。

「オープン記念に。」

と俺が言うと彼は付け加えた。

「日高の全快と彼女に。」

「彼女？」

「そうだよ。プリプリのだ。」

「やれやれ。」

沢木はハイペースでシャンパンを飲んでいた。

「日高、今回はやけに慎重じゃないか？」

「は？」

「いつもはガッついてポイされるだろ。」

「まだ気持ちが煮詰まってない。」

「へぇ、そりゃ初耳だな。」

「事故からよみがえってないだけだ。」

「そう来たか。」

「沢木、勘ぐるなよ。」

沢木はウニのクリームパスタをシャンパンで飲み下した。

「彼女はなんつうか熟れてるんだよ。」

「そうか？」

「僕の勘だが、たぶん言い寄ってくるヤカラが次から次へ途切れないと思うね。」

「そうかな？俺はそうは思わないが。」

「日高、おまえは女に飽きられるタイプだからプリプリの彼女のことは遠くから眺めて満足するしかなさそうだな。」

「俺はそんなにつまらないタイプなんだろうか？」

「そもそも付き合ってフラれてばっかりで誰とも長続きしないじゃないか。」

「そうだけど、それは俺だけが悪いってことでもないんじゃ。」

「とにかくあのプリプリ女はやめておけよ。捨てられるのが目に見えてる。」

俺の恋は始まる前から終わりが見える。

それはいつものことだ。

沢木はそんな俺をわかっていた。

< 24 / 43 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop