じゃあなんでキスしたんですか?
「明後日までに桐谷のインタビューが取れないとスケジュールがきつくなるぞ」
その声ひとつで女性を虜にしてしまうこの森崎課長――森崎修司、三十歳――は、経営企画部広報課の課長であり、わたしの直属の上司だ。
「そうなんですけど、話すら聞いてくれないっていうか、取り付く島もない感じで」
七階でエレベーターの扉が開き、課長が長い足を踏み出す。
女性に馴れ馴れしい態度を取らない森崎課長だけど、その見た目からモテることは確実だし、女性経験も豊富に違いない。
わたしは前を行く大きな背中を見上げながら、自分の胸を押さえた。
頭の中に桐谷統吾の憎らしい顔がよみがえる。
「あの、課長」
エレベーターホールからフロアに入ろうとしていた後ろ姿を呼び止めると、ほんのすこし頬骨の浮いた顔が振り返る。
無骨さをまとった彼の手にあるコーヒーは、意外にもブラックではなく甘さたっぷりのカフェラテだった。
「桐谷さんのことで相談したいことがあるんです。あの……ちょっとお耳を」
わたしが目で訴えると、缶コーヒーを口に運びながら森崎課長は察したように長身をかがめてくれた。
周囲に誰もいないことを確認し、わたしは声をひそめる。
「あの、胸ってどうすれば大きくなるんでしょうか」
「ぶっ」