じゃあなんでキスしたんですか?
「森崎さん、しっかりしてくださいい」
こんなところで完全に脱力されてしまったら、わたしじゃどうあっても動かせない。
どうにかベッドまで連れて行かなければ。
「寝室はどこ」
まだぎりぎり自分の足で立っている彼を支えながら、一番手前のドアを開くと、幸運なことに大きなベッドが目に入った。
クイズ番組に正解したようなかすかな喜びを感じながら、わたしは森崎さんを大きなベッドにダイブさせた。
スプリングが大きく悲鳴をあげる。
よし。これでいい。
「じゃあ、わたしは帰りますね。鍵はポストに入れておきますから」
と言っても酔っ払っている課長には伝わってないかもしれない。
メールをしておけばいいか、と思い直して時計を確認すると、深夜0時を回っていた。
「やば、終電ぎりぎり」
駆け出そうとした瞬間、後ろから腕を掴まれた。
「え……」
振り返ると、ベッドにうつぶせたまま森崎さんがわたしを引き止めている。
眠そうな目が、何かを訴えるように見上げている。