じゃあなんでキスしたんですか?


「あの、なにか」
 
もしかして、お水とか持ってきたほうがいいかな。
 
キッチンに向かうために廊下に戻ろうと思ったとき、掴まれたままの腕を強い力で引っ張られた。
 
視界が揺れる。
 
絨毯につまづくようにして、わたしは彼のベッドに上半身を投げ出した。

「いったぁ。もう、森崎さん」
 
顔を歪めながら目を上げると、鼻先が触れそうな距離に整った顔があった。
 
心臓が大きく跳ねる。

「ほんと、かわいいなおまえは」
 
節の目立つ指が、わたしの頬をそっとなでる。

切れ長の目に見つめられ、声も出ない。

「小野田……」
 
甘さだけ絡めた声でささやくと、森崎さんはわたしを引き寄せた。

「え……」
 
何が起きたのかわからなかった。
 
合わさった唇の感触に、意識が集中する。
 
いままで感じたことのない、驚くほどやわらかな触れ合いに、頭が真っ白になる。
 

キス――


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