じゃあなんでキスしたんですか?
3/Help me, please.
3◆
まぶたの裏に、くもりのない笑顔が浮かぶ。
あんな顔、はじめて見た。
会社ではいつも無表情で、“機械”と陰口をささやかれるくらい、どちらかというと不機嫌な顔をしているのに。
ほんの少し頬を上げて薄い笑みを浮かべることはあっても、あんなに顔のパーツすべてがほどけてしまいそうな笑い方をするなんて……。
すこし垂れ気味の切れ長の目と、男性らしく伸びた鼻梁と、大きくはないのにしっかりと肉感のあった唇。
「肉感……」
思い返すように、まくらに口を押し付ける。
ごつごつした骨と筋肉でできている男性のからだの一部なのに、彼の唇はものすごくやわらかかった。
「ん、んふふふぅ!」
布地に顔を埋めたままバタバタと手足を動かしていると、いきなり引き戸が開いた。
「ミヤちゃん、パスタ食べる?」
声にならない叫びは、低反発まくらがあますところなく吸収してくれた。