じゃあなんでキスしたんですか?


「あ、お湯沸いたぁ」
 
上機嫌で電気ポットに向かう妹の肩に、なにげなく目が行く。キャミソールの紐がまっすぐ伸びた白い肌の上に、ちいさな赤い痕がついている。

「肩、どこかにぶつけた? アザになってる」

「え?」
 
驚いたように振り返る妹にアザの場所を指し示すと、マイは姿見でむき出しの肩を確認し、「なぁんだ」と息をついた。

「これアザじゃないしぃ」

「え」

「ねーミヤちゃんはさぁ、好きな人いないの?」
 
コーヒーを淹れながら、マイがわたしを振り返る。思いがけない質問に、わたしはパスタを口に運んだまま固まった。

「いっつも言ってるじゃない。心が全部で好きって。そういう人、ミヤちゃんはいるの?」
 
思い浮かんだのは、くもりのない笑顔だ。
 
筋の張った腕の感触と、甘くとろけてしまいそうな、声。

「きゃー、ミヤちゃん真っ赤! 好きな人いるんだぁ!」
 
マイの叫びにはっとする。

「や、別にそういうんじゃ」

「えーだれだれ? ミヤちゃんの好きな人―!」
 
言いながら、いたく興奮した様子で飛び跳ねる。めったに聞けない姉の恋愛話に、本人以上に興味があるらしい。
 
て、だから恋愛ってわけじゃ……。
 
コーヒーの香りが鼻をつく。顔を上げるとマイがカップを手に至近距離からわたしを覗いていた。

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