じゃあなんでキスしたんですか?
「もしかしてぇ、昨日のイケメン? ほら、白シャツの、女の人みたいに綺麗な顔してた――」
「桐谷さん?」
わたしはびっくりして顔を振った。
「ち、ちがうよ!」
「ええ、違うのぉ? ここ数年出会ったなかで一番のイケメンだったのに」
不審そうに目を細める妹に、もげるんじゃないかというほど両手を振ってみせる。
「絶対ちがう! ノー桐谷!」
「必死に否定するところがあやしいぃ」
「だから、ちがうんだってば」
「ふうん?」とあきらかに疑っている顔つきで席に着くと、上目づかいにわたしを見る。
「でも、そっかー。ミヤちゃん、とうとう恋する乙女になっちゃったんだね」
断定的に言われると、こっちのほうが戸惑ってしまう。
「恋……」
たしかに、夕べの出来事を境に、心の中がまるごと入れ替わったみたいに、気持ちが落ち着かない。
わたしがわたしじゃなくなったみたいに、頭の中には自然と彼の顔が浮かんでしまう。
そのたびに胸が高鳴って、かと思ったら喉の奥が痛くなって、まるでなにか途方もない病気にかかってしまったんじゃないかと思うくらい安定しない。
それなのに、ちっとも煩わしくない。